徘徊や排せつ障害…歩行困難…「ごめんね、ごめんね…」愛犬を泣きながら預ける高齢の飼い主 長寿時代に広がる“老々飼育”の現実…札幌の老犬ハウスの日々

高齢者

人も犬も長寿になる中、いま”老々飼育”という、厳しい現実が広がっています。どうすれば、愛犬の穏やかな暮らしを守れるのか。悩める飼い主を救う、取り組みを見つめます。

◇《17歳チワワと90代飼い主…広がる“老々飼育”》
『逢犬はうす』を運営する宮西雅子さん
「これから連れて行きます…1週間ぶり、それでまた預かって」

チワワのペコちゃんは17歳。人間の年齢では84歳の老犬です。飼い主のもとへ帰るのは1週間ぶりのこと。

ペコちゃんを車で送り届けるのは、札幌で活動する『逢犬(あいけん)はうす』。介護が必要になった高齢の犬たちを預かる団体です。

飼い主はいま90代。食が細くなったペコちゃんに、食事を用意し、おむつを交換することが難しくなりました。

『逢犬はうす』を運営する宮西雅子さん
「なにペコちゃん、おうちいいの?よかったね」

飼い主は1週間単位で『逢犬はうす』にペコちゃんを預け、2、3日を自宅で一緒に過ごす。そんな“老々飼育”の暮らしが続いています。

今から9年前の2016年、札幌・北区に宮西雅子さんが『逢犬はうす』を立ち上げました。朝から夕方まで預かる犬もいれば、1か月単位のショートステイ。そして、年老いた犬が最期のときを迎えるまで、終生預かるケースもあります。

現在30頭ほどを預かっています。

『逢犬はうす』を運営する宮西雅子さん
「ペコおはよう。あいちゃん大丈夫?よしよし」「あいちゃんの飼い主は、お父さんもお母さんも高齢で、世話がきつくなっているのさ…あいちゃんに徘徊されて」

◇《徘徊や歩行困難、夜鳴きも…認知症の老犬たちを介護》
 認知症を患う柴犬のあいちゃんは18歳。徘徊が止まず、食事も排便も難しくなっています。飼い主は病の果て、あいちゃんの余生をここに託しました。

『逢犬はうす』を運営する宮西雅子さん
「私たちだってずっと寝てたらしんどいじゃん?」

高齢のあいちゃんは、自分の力で歩くことがもう出来ず、車いすが必要です。車いすは、以前ここに愛犬を預けていた利用者が譲ってくれました。

『逢犬はうす』を運営する宮西雅子さん
「この子は、本当に穏やか。きっといいトイプードルだったと思う」

『逢犬はうす』に来て1年になる老犬のルンちゃん。3年前から夜鳴きが激しくなり、やはり歩行も困難になりました。ルンちゃんの飼い主も高齢で、現在、自宅で病と闘っています。

『逢犬はうす』を運営する宮西雅子さん
「お母さん、ルンちゃん置いて帰るとき、泣いてた。“ごめんね、ごめんね”って。だけど、そういうことじゃないんだよって説明して。自分で看られないものを抱えてるほうが、ルンちゃんに気の毒だからって」

札幌で、年老いた犬たちを預かる団体『逢犬はうす』。宮西雅子さんを含め、スタッフは4人。ほかにボランティアも加わり、10人ほどで犬たちのケアにあたっています。

おむつを替え、薬も飲ませ…、預かっている犬の体調や好みに合わせて、食事を用意します。

『逢犬はうす』を運営する宮西雅子さん
「玄米のおじやはすごく喜ぶ…かつお節だから」

敷地内にあるドッグランは、活動をサポートするボランティアが作りました。

◇《人も犬も老いの果てに…犬の長寿化で不幸な事態も》
 預かり料金は1日2800円。病院代や薬代などは実費ですが、飼い主の負担を減らしたいと、宮西さんは、相場より料金を抑えています。2016年の立ち上げ以来、値上げはしていません。

ただ、スタッフの人件費などを考えると、ほぼ利益は残らない運営です。

『逢犬はうす』を運営する宮西雅子さん
「預かりの料金が高いと、飼い主はしんどいって…。そうであれば費用を抑えて、できるだけ数多くの飼い主に頼ってほしいという考え」

利用している飼い主
「きのうウンチが出たが、ちょっと下痢も混ざってる。たまにちょっと血混じってる。ちょっと食べるけれど」

 朝から夕方まで預けるという飼い主が訪ねてきました。抱きかかえてきた愛犬は、まもなく16歳になるバニラちゃん。

身体を動かすことも少なり、夜泣きが続くなど、認知症の兆しも顕著です。

このため24時間、目を離すことができず、仕事で留守にする間、愛犬が心配で、ここを頼っています。

利用している飼い主
「(逢犬はうすの存在は」助かります、ないと困る。置いておけないからバニラだけでは…」

 日本ペットフード教会の調べでは、飼い犬の平均寿命は14.9歳。1980年代の倍近くになったとのデータもあります。

飼い主の病気や入院、施設への入所など。犬の長寿化が、不幸な飼育放棄につながるケースが少なくありません。

◇《高齢の飼い主を癒す“愛犬”という家族を守るために…》
 年老いた犬を抱えながら、飼い主自身も高齢となり、以前と同じような暮らしが困難になっていく“老々飼育”。

この問題の解決にあたる人物は、大切な愛犬を飼い切るためには、信頼できる第三者が必要だと指摘します。

NPO法人ホッカイドウ・アニマル・ロー代表理事 今井真由美さん
「いまの時代は、やはり第三者の関与が、とても大切かなと思います。お一人さま、単身世帯が多いからこそ、分かち合える人、安心できる関係、共倒れにならないためにも、信頼できる第三者に託したりお願いすることは、ペットの生涯を守るとともに、ご自身を守ることにもなります」

高齢者にとって、愛犬は心を癒やす家族。しかし、互いに老いていく中で、その命を支えきれなくなる現実があります。

 札幌・北区に『逢犬はうす』を立ち上げて、まもなく10年。宮西雅子さんは、これまでに500頭の年老いた犬たちを看取りました。

宮西さんは、預かっている犬が旅立つとき、こんな約束をします。

『逢犬はうす』を運営する宮西雅子さん
「最期を迎えた犬たちには“また会おうね”…と伝えるけれど、また“そういう子を助けるよ”って声をかけて」

居場所を失ってしまう犬たちを救いたい…この思いが、宮西さんの原動力です。

◇《飼い主と愛犬が“一緒に過ごせる”終の棲家を…》
 『逢犬はうす』では、季節ごとにイベントを開催。活動のための資金を集めたり、愛犬との思い出や介護の話をしたりするなど、交流の場を設けています。

出展する10店舗の収益の1割に加え、バザーの売り上げのすべてが、犬たちの医療費に充てられます。愛犬を託した飼い主が、その後亡くなってしまい、犬だけが残されるなどした場合にも使われます。

イベント会場には、宮西さんらの支えで、愛犬を看取った人たちの姿もありました。

利用していた飼い主
「2年9か月預かってもらい、19歳8か月までがんばってくれた。宮西さんとスタッフのおかげです」

利用していた飼い主
「自分の手から離してしまう時って、罪悪感があると思うんですけれど“そんなに頑張らなくても大丈夫だよ”って、宮西さんから言っていただいて」

利用していた飼い主
「看てもらって、助かりました」
宮西雅子さん
「あのときねぇ…思い出して、すぐ涙ぐむから」

 宮西さんはいま、老々飼育の現実と向き合うために、あるプランを練っています。

『逢犬はうす』を運営する宮西雅子さん
「実は、飼い主さんも一緒に住める保護施設を作れればいいなと思っていて。そうしたら、泣きの涙で愛犬を置くことはなくなる。いま、そのための事業計画をコツコツと作ってる最中。来年には作りたい」

飼い主と愛犬が、共に歳(とし)を重ねる時代。宮西雅子さんは、老いの先にある、新しい“終の棲家”を作ろうと活動を続けています。

◇《愛犬を飼い切る責任…どう“老々飼育”に備えるか》
堀啓知キャスター)
 もちろん最後まで”飼い切る責任”は大切なんですが、ペットが傍にいることで、心が満たされたり、生きがいにつながったり…。高齢になって一層、動物たちの力が必要になるんじゃないかとも思えますが“老々飼育”という厳しい現実の前に、しっかり備えることが大事だということですね。

森田絹子キャスター)
 今回、取材した『逢犬はうす』と同じような、いわゆる“老犬ホーム”と呼ばれる施設は少しずつ増えています。ただ、費用面から利用が難しいことも考えられ、そうした場合、動物を託することができる相手を見つけておくことは大切です。

そして、愛犬がどんな性格で、ワクチンを接種しているかなどを記した、ペットのエンディングノートも用意しておくことが、大切とのことです。

堀啓知キャスター)
家族や友人、老犬ホーム。大事な愛犬を託せる先を見つけておくことも、最後まで飼い切るという、飼い主の責任ではないでしょうか。

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